2.3 配偶者選びは商品選びと似ている?
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MBA取得後、暇な時間を利用して心理学の授業に出席し、デヴィッド・バス(David M. Buss)らが提唱する進化心理学研究に触れるようになった 1998年~2003年の間、彼あ進化心理学者ダグラス・ケンリック(Douglas T. Kenrick)の指導のもとで社会心理学研究を行い、2001年にアリゾナ州立大学の社会心理学修士、さらに2003年には社会心理学博士の学位を得た 興味を持つ研究テーマの一つに、ヒトの婚姻と配偶者選択
男性と女性が互いに惹かれ合う条件には、それぞれの資源量や、外見、社会的地位、知性など、様々な要素が含まれていることを提唱し、さらに進化的な視点から、人々の配偶者選択における好みを考える際には、必需品と贅沢品を分けて扱うべきだと主張
収入があまり多くない場合、人々はそのうちの大半を生き延びるための必需品に投資する
収入が増えるにつれて、必需品の限界効用は徐々に下がり、贅沢品を好むように鳴る 李は予算配分というミクロ経済学の概念を用いて、進化・適応と関連する社会的意志決定の心理特性を検証 例えば、2002年に行われた研究では、参加者にある程度の予算を与えて、長期的な配偶者の特性を購買するように教示した
予算の額が少ないとき、男性参加者は女性の身体的魅力を買う傾向があり、女性参加者は男性の社会的地位と資源を買う傾向があった
しかし、予算の額が増えるにつれ、人々がこれらの性別ごとに分化された特性にかける予算の割合は減少し、逆に別の特性、例えば独創性などの特性にかける予算の割合が増える結果が得られた
進化的視点と経済学的視点を組み合わせると、女性の身体的魅力とその繁殖能力が正相関するため、男性は女性の身体的魅力に対しては最低基準を設けることによって繁殖の成功率を保証しようとしていると言える。
しかし、身体的魅力や社会的地位などの特性の「限界効用」は下がる傾向にある
すなわち、最低基準を満たした後、これらの特性の1単位あたりが提供する繁殖的価値は徐々に減ってしまう
これらの特性が持つ限界効用が下がれば、相対的に他の特性はより魅力的に見えてくる
予算が十分にあれば、男性も女性も完璧な配偶者を期待してしまうが、配偶者選択においての予算に限りがあると性別ごとの差異は顕著になり、逆に予算が増えていくとこの差異は徐々に薄れる(Li & Kenrick, 2006)
必需品と贅沢品
メインの研究テーマは配偶者選択の研究にあるパラドックスに端を発している 社会心理学者や進化心理学者は、男性は身体的魅力に重きを置き、女性は地位や財産に重きを置く理由を指摘してきた(例えば, Buss, 1989; Symons, 1979)のに反して、人々は長期的関係を持つ理想の配偶者を考えるとき(例えば, Buss & Barnes, 1986)、これらの特性が最も重要とは見なさない、ということ 確かに性差は常に予想通りの方向に出るのだが、結果は同時に、これらの特性が絶対的な意味で重んじられているわけではないことも示していた
進化的視点から、これらの特徴は男性において女性より(もしくは女性において男性より)重視されるだけではなく、一つの性別の中で、他の特徴よりも優先順位が高いはずだと考えた
女性の身体的特徴が繁殖能力を示しているのであれば、男性は配偶者候補の相手が少なくとも身体的に最低限の魅力があるかをまずは確かめることが適応的
同様に(少なくとも祖先の時代において)男性の財産が自分や自分の子どもの生存に直結するのであれば、女性は相手の財産や社会的地位をまずは見るだろう
理論と実際のデータが一貫していないこの状況にどう取り組むかを考えていたとき、ミクロ経済学での消費者の意思決定を理解する上で有用なモデルが配偶者選択にも応用できることに私は気づいた 予算以上のコストがかかる様々な選択肢がある状況では、ヒトは「贅沢品」に注意を向けるより前に、まずは「必需品」に目を向ける傾向にある 比較的少ない予算しかなければ、必需品が大きな利益を与えてくれるが、収入が増え、かなりの必需品が揃うと、これらの商品の価値はどんどん下がっていく(限界効用が下がる) 予算配分という研究手法を開発することで、配偶者選択全体に制約を課し、潜在的な配偶者の特徴を「必需品」と「贅沢品」に分けることが可能になった
大学のキャンパスと空港で私が集めたデータから明らかになったことは、長期的関係を考えるとき、男性はまず相手に十分なレベルの身体的魅力があるかを優先し、女性はまず相手に十分な社会的地位があるかを優先する傾向があるということだった
また、これらの特徴の平均的なレベル以上に、他の特徴の方が価値があるとみなされていた
つまりは、ほとんどのヒトは理想的には、魅力的で、頭が良くて、創造性があって、経済的に豊かで…といった万能相手を好む
しかし、選択肢が強く制限されているとき、男性は身体的魅力を必需品だとみなし、女性は地位を必需品だとみなす
この研究アイディアはやがては頻繁に引用される論文になっていった
将来の展望としては、重要な特徴の優先順位の個人差にも着手したいと考えている
例えば、本人が配偶者といて高い価値を持っていると、相手にも高いレベルの「必需品」を求めるか、といった問題
この研究手法はどんな領域についても優先順位を解明するのに利用できる
集団のメンバーを探すとき(Cottrell, Neuberg, & Li, 2007)
近親婚回避(Lieberman, Toody, & Cosmides, 2001) 最近私は、エド・ダイナー(Ed Diener)研究室から招聘した研究者とともに、主要な社会的ドメインと人生目標の優先順位に関する研究をしている 進化心理学の発展と未来
進化理論の原理が、他の心理学(そして、人類学の)の視点に取って代わり、それらを飲み込み、統合していくことは間違いないだろう
エドワード・ウィルソン(Edward O. Wilson)が文字通り冷水を浴びせかけられた1978年に始まり、進化理論をもとにした投稿論文に対する他より厳しいように思える審査基準(Kenrick, 1995)、進化理論を客観的に紹介するのではなく、むしろ信用を落とそうとする心理学の教科書、進化的視点に立った研究者を雇う際の教授陣の強い抵抗(Symons, 私信, 1997) それにもかかわらず、比較的短い間にも、進化心理学の領域が爆発的に拡大していくのを目の当たりにしてきた
現代の意欲的な進化心理学者達に対して示唆できることが2つある
この分野は急速に発展してはいるが、比較的未熟であり、配偶者選択や配偶戦略などの根幹となる分野にも、「基礎研究(実践への応用がすぐには期待できない課題を扱う研究)」をする機会が山ほど転がっている
進化心理学の発展と支持が拡大するにつれて、進化がヒトの心理にも当てはまることを説得する必要性は減る一方で、進化心理学の実践への応用を期待する声は高まっていく
実践への応用として私がまず思いつくのは、ビジネス分野と幸福に関わる分野
ヒトのリスク評価、経済的な意思決定、協力、購買行動の理解
実際に、行動経済学や消費者心理学などのビジネスに関連した分野では、進化理論を援用した研究も出てきている
進化的な見方を持った私の大学院での同級生3人は企業のマーケティング部門に採用された
それに加えて、人々が地位や財産をめぐる競争で成果を挙げることがますます困難になるにつれて、(人類の心が進化してきた)昔からある社会的状況、例えば、友情とか拡大家族、核家族や恋愛関係などは、どんどん不安定で流動的になるだろう
その結果、人々の精神衛生や幸福感はますます脅かされることが予想される
ランディ・ネシー(Randy Nesse)らは、精神疾患の非適応的に見える症状の根底に適応的機能が隠れている可能性を検討し、この分野でも進化の視点が有用であることを示している 行動経済学などと比べると、臨床心理学のような分野での進化革命に対してはより大きな抵抗が予想される
中国とアジアの将来
進化心理学に興味を持ったなら(あなたがアジアにいることを前提にして)、ぜひジェフリー・ミラー(Geoffrey Miller)の2006年の論文'The Asian future of evolutionary psychology'を読む サトシ・カナザワの2006年のコメント論文'No, it ain't gonna be that way'の中で提起された妥当な考察や、さらなるミラーの返答'Asian creativity: A response to Satoshi Kanazawa'も合わせて読んでみましょう 一つ言いたいのは、アメリカは長きにわたって繁栄と優位性を享受してきたが、グローバル化はほぼ間違いなく、この特権を世界に広く分散させるように働く、ということ
中国(と多くのアジア諸国)は、多くの人口を抱え、急速な経済成長とインフラの整備が進んでおり、今後経済的に頭角を現すだろう
そのような変化には、母国の大学の学部において、心理学の中心的存在に、進化心理学を位置づけることや、世界の仲で、進化心理学の将来を確かにするのに重要な役割を果たすことも含まれている
こうした目標を掲げるのであれば、王暁田(X. T. Wang)のような志ある研究者が力になってくれるだろう